昨日の風から クリスマスに想う その5 ベツレヘム通りの人々

  • 2007.12.18 Tuesday
  • 10:49
新約聖書の2番目『ルカの福音書』には、イエス・キリストご降誕のいきさつが詳しく美しく書かれています。感動せずにはいられません。マリヤとヨセフが、住民登録のためにナザレから100キロあまりの旅をして、はるかベツレヘムに到着し、宿を探す場面は映像を見ているようにリアルです。古来小説にエッセーに劇に、絵画に音楽にと、あらゆるジャンルで作品が作られてきました私も、まねごとをして楽しんでいます。朗読劇を書いてみました。昨年3カ所ほどで使われました。読んでいただけたら幸いです


降誕劇  ベツレヘム通りの人々        

 (音楽が流れる中で、ナレーターが語り出す)
マリヤとヨセフはようやくベツレヘムの町にたどり着きました。ロバの背に揺られるマリヤも手綱を取るヨセフにも、疲労の色が濃くにじみ出ています。
 日が傾いて、黄昏の空は刻一刻と暗さを増し、早くも冷え冷えとした夜風が吹き始めました。
 二人は町の中央広場を抜け、役所の前を通り、メインストリートを上っていきます。両側は名を誇る旅館や店舗が建て込み、競い合うようにあかあかと灯をともしています。道は緩い上り坂。ロバが荒い息を吐いています。(音楽止める)

ヨセフ はやく宿を決めよう。長い旅だったね。さぞ疲れたろう。
マリヤ いいえ、あなたこそ私を気遣ってお疲れでしょう。
 
 ヨセフはぐるりと辺りを見回し、一番豪壮な建物に入って行きました。

ヨセフ 宿泊したいのですが、できるだけよい部屋をお願いします。
従業員 (慇懃に)お名前は?ただいま予約リストをお調べします。
ヨセフ 予約はしていませんが、泊めていただけないでしょうか。
従業員 (じろじろとヨセフを見ると急に態度を崩して、声高に)無理だね。うちをどこだと思っているのかね。ここは迎賓館だよ。国の偉い方や祭司長の皆様のお宿さ。おや、ガリラヤなまりだね。世間様を知らないね。
ヨセフ 私はナザレのヨセフと言いますが、ダビデ王の子孫で…
従業員 もうたくさんだよ。ダビデの子孫など掃いて捨てるほどいるってことくらいわかってるだろう。ま、よそを探すんだね。
数人の従業員たち口々に ダビデの子孫だってさ、アハハハハ

 ヨセフは憮然としてマリヤのそばに戻りました。

マリヤ こんな立派なところは私たちには不釣り合いですわ。
ヨセフ マリヤ。君のお腹にいる赤ちゃんはこの世のどんな王も比較できない、王の王、主の主だよ。全世界の救い主だよ。そのお方が泊まるところだもの、迎賓館どころか宮殿でもいいはずだ。
マリヤ そうですね、でもヨセフ、イエスはこの世の王として生まれるのではないでしょう。金や銀のきらめきを喜ぶでしょうか。私のような貧しい田舎娘を母に選んだお方ですよ。
ヨセフ おお、そうだった。私のような田舎大工を父に選んだお方だった。
天の神よ、おろかな我を赦したまえ。
 
ヨセフは天を仰いで祈ると、ふたたびロバの手綱を取りました。すこしずつ道
幅が狭くなり、両側の建物も低く、小さくなっていきます。

ヨセフ このあたりで探してみよう。
おや、マリヤ、苦しそうだが、もしや……
マリヤ ときどきお腹が張ってきます。お産の前触れだと聞かされています。でもまだ大丈夫です。
ヨセフ そりゃたいへんだ。待っておいで。こんどこそ宿を決めるからね。

 ヨセフは一件の建物に入っていきました。と、マリヤの耳に甲高い女性の声がき
こえてきました。

宿の女主人 無理ですよ。急に泊まらせろと言われても。あなたもよくわかってるでしょう、町は住民登録の人であふれているのですよ。いまごろ空いているところなんてありゃしませんよ。男の方一人なら相部屋もできますが、奥さんとご一緒じゃねえ。ごめんなさいよ。

 ヨセフは向かい側の一件にも入っていきました。

宿の亭主 無理、無理。超満員だよ。家族の部屋さえ使っている有様だよ。もう数日早かったら何とかなったのになあ。役所の手続きもいっこうにはかどらなくて滞在が長引いているのさ。みんないらいらしているんだ。

 ヨセフはさらに数箇所あたりましたが、全部断られてしまいました。

ヨセフ これは困ったことになった。マリヤ、具合はどうかね。もう少し先に行ってみよう。
マリヤ どんなところでもいいのですけれど…。きっとどこかイエスが生まれるのに一番ふさわしい場所がありますよ。神さまが用意してくださっていると信じます。
ヨセフ そうだとも。最高の場所があるよ。神に期待しよう。

 ヨセフは気を取り直してまた一軒の入り口に立ちました。辺りは家々の明かりも
まばらになり、通りには闇が漂っています。

主人  なに? 泊めてほしいだって? 道々断られて、ここまできたんだろう。当然だよ。今のこの町の事情を知っているだろう。
妻   おあいにくさま。うちは一見(いちげん)さんはとらないのよ。こう見えても迎賓館の別館ですからね。
主人  奥さんの出産が始まりそうだって。ますます泊められないね。
    (声を落として)でも、この先には宿はもう一軒もないよ…
妻   お産ですって。なんでまたこんな時に、間の悪いこと。この忙しいのにと
でもないことだわ。
(小さな声になって)わるいけど…泊めるわけにはいかないわ。
 

ヨセフは無言で出てくると、手綱をきつく握って歩き出しました。この先には宿はないとわかっていても引き返すわけには行きません。あたりはさらに暗くなり、道は凹凸が多くなり、ロバの一足一足にマリヤの体が大きく揺れました。
 さて、迎賓館別館では夫婦の話が続いています。

妻  (泣き声で)あなた、わたしたち、ひどいことをしたんじゃないかしら。出産間際の人を追い返してしまって。
主人 うーん。実を言うと、あの男の顔は気の毒で見ていられなかった。なんだか胸がズキンズキンしてたまらんよ。
妻  迎賓館別館だなんて、とんでもないうそをついてしまったわ。恥ずかしいわ。針で刺されたようにちくちくと胸が痛むわ。
主人 わたしはとっさに計算してしまった。お金が取れるような客じゃないってね。わたしはいつもいつも商売のことばかり考えてしまう。
妻  ああ、私って、冷たい女だわ。
主人 そう、わたしもだ。冷たい男だよ。
妻  わたしには愛がないのよ。思いやりがないんだわ。神さまに申し訳ない。
主人 そう、わたしも愛がない。神にお詫びをしなくてはいけない。
妻  あなた、あの二人、どこまで行ったでしょう。
夫  先に進んでいったようだけど、この道は崖下のヤコブの家でおしまいだ。ヤコブの家は町で一番貧乏だから、人など泊められないよ。一部屋で家族中が暮らしている。あとは家畜小屋だけだ。
妻  様子を見に行きましょうよ。
夫  次第によってはうちに泊まってもらおう。

 宿の夫婦はいそいで通りに出ました。そこへ数人の人たちが急ぎ足で近づいてきます。みんなヨセフを断った人たちでした。

男1 わたしは高飛車に追い出してしまったんだが、悪いことをしてしまった。心が責められてたまらなくなって、探しにきたんだ。
女1 私もけんもほろろに追い返したの。そしたら、急に胸が締め付けられるように苦しくなってしまった。ひどいことをしてしまったわ。あの人たちはどこでしょう。
男2 わしも心が騒いでたまらなくなった。神に赦しを乞いながら出てきた。
男3 旅人をもてなしなさいとは我らの神の大切な戒めではないか。知っていながら、情けのないことをしてしまった。
 
数人の男女は口々に反省し悔いながら、マリヤとヨセフを探して坂道を上ってい
きます。
 

さて、ベツレヘムの町から拒否され、どこにも泊まるところの無いマリヤと
ヨセフはどうしたでしょう。この答えは教会学校の生徒たちなら全員正解でしょ
うね。そうです。家畜小屋に泊まることができました。
町はずれに住む一番貧しい家族が、全員で歓迎し、こんなところですがと、申し
訳なさそうに言いながら案内してくれたのでした。

マリヤ ヨセフ、神さまはちゃーんとよい場所を用意してくださったのですね。
    暖かい人たちの心と、この静かさがイエスにはいちばんでしょう。
ヨセフ よかった、よかった。ほっとしたよ。でも、一時は不安になってしまった。このままじゃ、野宿しかない。それではイエスや君に申し訳ないと思ってね。
マリヤ わたしも不安でしたわ。ふっと、かすかに、神さまを疑ってしまいました。
ヨセフ わたしもだ。神に怒りを抱いてしまった。こんなに大きな使命を果たそうとしているのに、なぜ部屋ひとつくらい用意してくださらないのだろうと。
マリヤ 受胎を告知されたとき、『わたしは主のはしためです。おことば通りこの身になりますように』と明け渡したのに…、不信仰でした。
ヨセフ 『神にはなんでもできないことはない』と頭ではわかっていても、不本意なことがあると、すぐ不信仰になってしまう。私は罪深い人間だ。

 マリヤとヨセフは頭(こうべ)を垂れて祈り始めました。
 マリヤの出産がはじまりました。

そのころ、ベツレヘム通りの人々は家畜小屋の近くまで近づいていました。

(人々が口々に)
* 空を見てください。見たこともない大きな星が光っていますよ!
* ほんとだ。なんと大きな星だろう。明るくて太陽のようだ。
* あっ、星が動いている。下にむかって降りて来ている。
* 光がますます強くなって、まぶしいですね。
* あっ、家畜小屋の真上で止まった!。
* わかった。小屋の中にあの旅人たちがいるに違いない。
* きっとそうです。そうです。
* みなさん、あのふたりは特別な方々かもしれませんね。
* そう思います。神さまのお使いかもしれません。
 
そのとき、ずっとはるか上空では、小さな星々が申し合わせたようにいっせいにちかちかと揺れながら光りはじめました。その光のあいだから、こぼれるように天使たちの歌声が響いてきました。ベツレヘムの町は光と歌声のなかに包み込まれていきました。
家畜小屋のまわりでは、ベツレヘム通りの人々がきよい厳かな気持ちにあふれ、全員が手を組み合わせてお祈りをしていました。
 そして、家畜小屋の中では、生まれたばかりのイエス様を囲んで、マリヤとヨセフが感謝のお祈りをささげていました。
 
    賛美歌114番の1節と4節を全員で歌う。
 
            おわり





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  • 2020.05.31 Sunday
  • 10:49
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    コメント
    ものすごく面白い降誕劇に、何度も何度も笑い、そして、心の中で何度もHallelujah !と叫びながら、素晴らしい劇を、只で見せていただきました。どうもありがとうございました。
    • サムサム
    • 2007/12/18 10:48 PM
    楽しんでいただけてうれしいです。クリスマスは貧しい想像力を刺激してくれますね。恵みがあふれているからでしょう。
    • サムサムさんへ
    • 2007/12/19 7:42 AM
    心が和みました。ありがとうございました。
    このところ、あまりに厳しい現実と自分の体力のなさ、そして人の情けに飢えていたようです。

    もう一度信じます。人を信じます。
    • すみれさん
    • 2007/12/19 10:31 AM
    素晴らしいです。
    音楽と聖書朗読による生誕劇は何度も体験していますが、こういう作品は初めてです。
    印刷して教会へ持って行きます。今年は間に合いませんが、来年の若い人達に期待しようと思います。
    ありがとうございました。
    • 美雨
    • 2007/12/19 10:55 AM
    人の情けは薄いものですね。しみじみ悲しく思います。ほしがる自分が情けないのだと思い直しています。心を癒すのは恵みと、まことに満ちたイエス・キリストだけです。
    • すみれさんへ
    • 2007/12/19 1:37 PM
    私の教会では祝会の余興に熟年の兄姉が、さらにアドリブを入れて朗読していました。爆笑の連続で、作者としてはちょっとはらはらしました。
    • 美雨さまへ
    • 2007/12/19 1:40 PM
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