人生の逆風の中で見つけた希望の風を、小説、エッセイ、童話、詩などで表現していきます。

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天の星のように―母エバから母マリヤまで 美しき姉妹たち
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世相の風から 変貌する師走の我が町

世相の風から 変貌する師走の我が町

 

 

小学校脇にあった小さなお店とその家屋の解体が始まった。ごく普通の2階建て家屋だったが、3、40年前になるだろうか、奥さんがお店を始めた。町では「金魚屋さん」と呼ばれ、親しまれた。はじめは子供相手に金魚やメダカを売っていたが、やがて立派な水槽や熱帯魚も売るようになり、そのころ、家庭でも水槽を備えて珍しい魚を飼うのは流行ったが、ブームでもあったのか、お店の前はいつも人だかりがしていた。

 

ご主人も手伝うようになり、お店は繁盛した。働き者の御夫妻だった。奥さんは朝早くから家の前の道路を清掃し、落ち葉一つないほどきれいだった。道行く人に愛想よく声をかけ、金魚を買わない私でさえ懇意になり話し込むこともあった。

 

数年前から、奥さんの姿が見えなくなった。街路樹の周りも雑草が伸び放題、お店も開いているのかいないのか、薄暗いままになった。たぶん、老齢化しているとは感じていた。そのうちに「町の風」が教えてくれた。奥さんは脳梗塞で倒れ、ご主人がお世話していると。そのうちご主人の姿もぱったりと見なくなった。また町の風が教えてくれた。ご主人が、認知症になり、すでに施設に入所し、奥さんは別の施設にいるとのこと。どこにでもある風景であり風聞であろう。しかし、往年の奥さんの笑顔と、眼鏡をかけ、箒を持つご主人の顔が大きく目の前に見えて、切ない思いになった。

 

町の風である隣家の婦人が「しょうがないよ、みんな年取っていくんだよ。施設の費用のために、この家は売りに出されている。子どもたちが決めたらしい」と教えてくれた。数日前から作業員が動き出した。やがて家全体に足場が組まれシートがかぶせられた。今朝、郵便ポストに行く途中に、重機の音がしてあの巨大な壊し手が縦横に動いているのが見えた。

 

町の風である隣家の奥さんとご主人が現場近くに立ってじっと見つめていた。そういえば、その家の一代前の人たちともあいさつを交わしてきた。住みだしたのは戦後すぐだろうから、かれこれ70年になるだろう。この家は三代でこの地での暮らしを終えたのだ。もちろん三代目はどこかに元気に生きているだろうが、もうこの近辺とは無関係だ。

 

我が家の数軒先の家も、近ごろ売りに出され、今は流行りの駐車場になっている。小さいながらも工場を経営して家はビルに建て直し、町会の役もして活躍していた。3代目で、売りに出した。初代は我が両親と同じ世代、2代目は私と同じ世代、3代目は我が家の娘と同級生だった。別れの挨拶もなく、いつのまにか駐車場になってしまった。戦前に生まれずっと同じ地にいる私は、町の移り変わりをじっと見てきている。今、町には高層マンションがいくつも聳え建っている。アジア系の外国の人たちの姿が目立っている。

 

 

 

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