書林の風から 未知の人、未知の世界へ――読書街道から

  • 2017.01.27 Friday
  • 12:26

書林の風から 未知の人、未知の世界へ――読書街道から

 

「堀田善衛」古い人である。生まれは大正7年(1918年)没年は1998年。名前だけは耳底にあるが著書を開いたことはなかった。まったくもって私の読書街道は貧弱なのだ。

それが、昨年晩秋辺りからまるで本人ご自身が近づいて来こられたような肉感を感じさせながら私の前に表れた。――いつまで私の存在に気がつかないのか――とじれったそうなのである。まずは手ごろな文庫本2冊を私のバッグに押し込んだ。『スペイン断章』の上・下巻である。

 

ああ、紀行文ね、ちょっと心が動く。

しかし、スペイン〜〜?

ここで私の食わず嫌いが頭をもたげる。旅行には目がないほうだが、どうもスペインには興味やあこがれがない。と言って皆無ではない。断片的には、プラド美術館には行きたいなあとか、フランシスコ・ザビエルの出身地バスク地方ってどんなところだろう。カトリックの巡礼地最後のサンティアゴ・デ・コンポステーラは見届けたいなどの思いがちぎれ雲のように漂ってはいた。

 

文庫本上巻の裏表紙の一文をまず読んだ。「歴史は読むものではなく見るものである――。スペインに強く魅せられ長く滞在した著者が、急峻な山々を分けて訪れたイベリア半島で眼にする有史以来現代史に至る、転変著しい歴史の足跡。感動と経験の積み重ねのなかから人間への深い洞察がにじみ出る、ノンフィクション文学の傑作」。

 

下巻の表紙裏の一文にも目を通す。「ヨーロッパ文化とアラブ文化の接点にあったスペインは、刻々の時代の爪痕を断層のように残す。キリスト教の奇蹟伝説、近くはスペインの内戦。その時代を動かそうと燃え盛った情熱の行く末とは―――。作家はスペインに腰を据え、人びととの触れ合いのなかで、人間とその歴史を、自らの眼で見据え、再発見する」

 

『歴史は読むものではなくて見るものである』との冒頭の言葉に深く納得しつつもスペインに長く滞在することなんてできない、滞在どころかたかが数日だって行けないんだから、と反発しながらもページを繰ることになった。すなわち、スペインという国を総なめする旅に参加することになったのである。当然ながら、私の幼稚なスペイン観が打ち砕かれ、現地へ行って「見て、住んだ」著者の世界に引き摺り込まれたのである。私のスペイン観は見事に変身した。それは単にスペイン観を変えただけでなく、今抱いている世界観にも大きく及んでいる。歴史は読むものであってもいいと思った。

 

堀田善衛氏は1952年「芥川賞」を受賞し、多くの小説を書いている。活躍のジャンルは広く、私としては大江健三郎氏を凌ぐ方ではないかと掛け値なしに言いたい。ノーベル文学賞をなぜ受賞できなかったのかと残念なほどだ。また稿を改めます。

 

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